特に氷の研究


 氷は基礎科学のさまざまな分野において重要な研究対象となっています.例えば,極域の地球科学は氷の物性抜きには語ることができず,雪氷の形成と構造は気象学や結晶学における中心的課題です.“燃える氷”としてよく知られているメタンハイドレートは,メタンを水の水素結合クラスターの“かご”に閉じ込めた包接氷の結晶です.17もの結晶多形が存在する氷は,相転移の舞台として物性物理学的にも興味深い物質です.星間分子の生成には宇宙に漂う氷の表面での化学反応の関与が強く示唆されています.これらに代表される氷の科学の根源は,一言で言えば,「氷は水の水素結合結晶である」ことにあります.さらに,化学反応,相転移,結晶成長などでは,水素結合のネットワークが切断された表面が重要な役割を果たす場合が多々あります.にもかかわらず,それらの基礎となる氷表面の分子レベルの構造とダイナミクスはまだ全く未解明です.そこで我々は,独自に開発したレーザー分光法を氷表面に適用して,その構造とダイナミクスを分子科学的に研究しています.特に,氷表面のプロトンの秩序性,擬似液体層の構造,表面分子の拡散挙動について,堅実な実験に立脚して新しい知見を得ることを目指しています.