工学部 応用化学科

受験生のみなさん

身近な研究トピックス

   応用化学科では社会に貢献する様々な研究を進めています。

   ここでは特に私たちの身近な問題の解決に取り組んでいる4名の先生の研究をわかりやすく紹介します。

「花粉症と空気汚染の関連と抑制」

 

王 青躍 教授

 近年、日本の都内に住む三人に一人が花粉症を発症していると報告されています。これは2月から4月にかけてのスギ花粉に限らず、5月頃のヒノキ花粉、8~9月頃のブタクサやヨモギなどの花粉と、ほぼ通年にわたる現代病と捉えてよいでしょう。これまでは花粉の飛散量が患者数に関わる原因と考えられてきました。しかし、大きなファクターではあるものの、それだけではないことが当研究室の学術研究から解明されています。大気中に移流・浮遊する、さまざまな汚染物質と花粉との接触により引き起こされる相乗効果が、重篤な因果関係をもって私たちを苦しめているのです。

  スギ花粉症を発症させる原因になるのは、花粉の表面に付着しているCry j1や、花粉内部にあるCry j2というアレルゲン物質(抗原)などです。それらの抗原が花粉から分離し、人体内に侵入して抗体と結合することで発症します。花粉自体は本来大きさ約30ミクロンと大きいので、直接に呼吸器系深部に入り込めませんが、アレルゲン物質は1.0ミクロン以下の大きさのため、簡単に体内に侵入し、呼吸器系深部の肺胞にまで到達してしまいます。他には自動車排気ガス、ゴミ焼却・工場排煙などの燃焼煙源からの有機物質、金属成分、硫酸塩や硝酸塩、つまりいま話題のPM2.5などがそれにあたります。

image07 自然な状態で割れる花粉は約2割程度です。しかし、大気汚染物質と接触した場合、図1に示すように、約8割が破裂して爆発します。文字通り爆発的にアレルゲン物質が拡散するのです。さらに危険なのは、花粉のアレルゲンだけならまだしも、特にPM2.5中の硫酸塩や硝酸塩などと一緒に存在すると、爆発しやすくなり、それに含まれる有害物質とアレルゲン物質も1.0ミクロン以下(PM1.0)として放出されることです。それらの有害物質は気管支炎や喘息を誘発させ、新たな変性したアレルゲンをつくる可能性のあることが解ってきました。結局、花粉アレルゲン物質を修飾してアレルギー性の増悪に作用するという計測結果も私の研究室から発見しました。

 このように長年、花粉症と大気汚染物質との関わりを研究し、警鐘を鳴らしてきましたが、ここにきてようやく注目されています。現在、対策方法としては、企業との共同研究によって、アレルゲン物質を抑制する技術、ならびに捕捉する技術を開発しています。しかし、もっと重要なことは、根源であるアレルゲン物質をいかに減らせるかだと考えています。しかも日本一国の問題ではなく、アジア諸国、欧米などを含めて世界的な問題と捉えています。大気中有害物質対策の先進国として、日本はその技術と情報発信をもっと世界に対して行うべきで、埼玉大学工学部応用化学科が、その役割を充分担えると思っています。


「“分析”して新しい分子を発見・創り出す」

 

齋藤 伸吾 教授

 私が研究を進めている「分析化学」という学問分野は、物質の成分や量を計測する分野だと思われがちです。もちろんそれも目的のひとつですが、分析するための「方法」を作り出す分野でもあります。新しい原理による高性能な分析方法が開発できれば、雑多な成分が混在した試料から、非常に微量に含まれる特定の物質を自在に取り出すことが可能となります。つまり、これまで知られていなかった新しい物質を発見したり、生み出したりすることも可能となるということです。以下に具体的な研究例を二つ紹介します。

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細胞表面を認識するDNAの電気泳動分離イメージ

 ①近年、生体中に存在する「金属タンパク質」に注目が集まっています。人間の体では金属イオンが微妙なバランスで必要とされており、多すぎても少なすぎても体に害を及ぼします。生体中の多くの金属イオンがどういう形態で存在し、どういう働きをしているのかに関しては不明な点が多々あります。金属イオンが極微量であり、さまざまな形態で混在しているため、金属タンパク質を分離して分析すること自体が難しいのです。それでも当研究室で,金属タンパク質の分離に特化した新しい電気泳動分析手法の開発に成功し,金属タンパク質分析が可能となってきました。この研究で特許二件を登録し,日本経済新聞(関西版),京都新聞,2013年10月18日でも紹介されました(教員の学術賞3件、学生の学会受賞6件)。

 

 ②遺伝物質として知られているDNAの一種が、特定の物質と強く結合するという特徴を持つことがあります。「DNAアプタマー」と呼ばれるこの特殊なDNAには、病原体と強く結合する抗体と似た機能があります。当研究室では、高度な分離分析手法を開発することで、性能の高いDNAアプタマーを発見できるようになりました。現在は、特定の細胞や細菌類、ウイルスに結合するDNAアプタマーを、抗体の代わりに利用する研究も進めています。この成果で、特許三件を出願し、日経産業新聞2018年10月18日でも紹介されました(学生の学会受賞6件)。

 

 この様に、工業製品の開発に寄与するのはもちろん、生物進化の秘密を解き明かしたり、医療に利用される等の最先端研究を私たちと一緒に研究しませんか?


「実験室内進化で分子デザインしよう」

 

根本 直人 教授

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 試験管の中で選択と変異導入を繰りかえすことで分子を進化させる。

 私は「分子進化」という生命に特有の現象によって人類に役立つ分子を「分子デザイン」する研究をしています。そこでわかってきたことは核酸(DNA, RNA)やタンパク質といった生体高分子は「進化する条件」を満たせば、細胞でなくても試験管の中で進化させることができるということでした。この研究は埼玉大学名誉教授の伏見譲先生が世界で最初に取り組んでおり、現在は「進化分子工学」と呼ばれています。この技術は欧米で「抗体医薬」に応用され大きな成果が挙げました(欧米の研究者は2018年ノーベル化学賞受賞)。日本でも成果を挙げるべく埼玉大学発ベンチャー(EME)を中心に研究が活発に行われ、5月には花王、北里大学と共同でコロナウイルスの中和抗体の開発に成功し、プレスリリースされました(日経バイオテクの記事を参照)。

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 リポソームに結合するLB-1というペプチドを発見。
 このペプチドを赤色蛍光タンパク質(RFP)に連結させて、リポソームに混ぜるとリポソームの表面が赤く染まります。

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他にも、① 環境問題に対して有効な解決法として生分解性プラスティックを合成するための酵素などを開発すること。② コロナウイルスやインフルエンザなどの感染病を迅速かつ正確に診断すること。など、進化分子工学の応用範囲は極めて広いと考えています。

 

 高校までは出された問題を早く正確に解くことが求められていますが、実は私自身は、このようなことはあまり得意ではありません。一つの疑問が生じるといろいろなことを考えてしまうため、答えが始めからわかっている問題を解くのは得意ではないのです。ただ、実際の研究では問題を発見する能力が大切になってきます。知識と経験が豊富なベテランの研究者が必ずしもいろいろ発見できるとは限りません。むしろ先入観なしに自ら考える若い研究者の方が新しい発見ができる場合が多いと思います(実際、多いです)。科学的に面白い現象や事象に興味をもって、「なぜ?」という問いかけを大切にする若い人たちにぜひお会いしたいと思います。


「感染症との対峙~化学の力で突破口を拓く!~」

 

松岡 浩司 教授

 我々のグループでは、「高分子化学」を基盤とした研究を推進しています。高分子化学は、化学の分野の裾野は広く、物理化学、無機化学、有機化学、分析化学、プロセス工学の全てに跨った学問分野になります。その中でも我々の研究分野は有機高分子化合物を中心としています。新しい高分子化合物を合成するにあたり、重要となるのは、有機合成化学と生化学の基礎知識になります。高分子化合物は、有機合成反応の繰り返しにより構築されています。タンパク質や遺伝子などの生体分子に関しても、有機化学の素反応が利用され、体の中で合成されています。知っていましたか? 例えば、免疫などの生命現象を司る抗体(antibodies)はタンパク質からできています。このタンパク質はアミノ酸と呼ばれる低分子のパーツに分解することができます。このアミノ酸がペプチド結合(アミド結合)により繋がり、高分子化合物になっています。この様に我々の研究分野では、有機化学や生化学の学問を基礎として応用研究を展開しています。

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 大腸菌O157:H7が産生するシガ毒素と合成高分子化合物とのドッキングシミュレーション

 感染症などの疾患は、私たちの細胞表層上にあるレセプター(receptors)にウイルスなどのリガンド(ligands)が接着することから始まります。我々の研究対象の一部として、この接着の阻害剤の合成研究やウイルス等の外来物質の検出薬の合成研究などを行っています。生命現象は1:1とは限らず、多価の結合がしばしばみられます。私達は、それを模倣する多価化合物(高分子化合物)の創出を行い、生物活性や検出感度の向上に化学の力で挑戦しています。これらの研究開発は、埼玉県の先端産業創造プロジェクトなどの支援を受けて実施してきました。また、学会発表や英語による学術論文として世界に発信し、研究成果の広報にも努めています。勿論、研究室所属学生も行っています。詳細は、ホームページをご覧ください。

 有機化学や生化学を基礎とする応用研究分野である高分子化学領域に興味のある学生は、ぜひ一緒に研究開発を行っていきましょう!我々一同、一緒に研究できる日を楽しみにしております。

 

他にも様々な分野の研究で社会に貢献しています。

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