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埼玉大学大学院理工学研究科 渋川研究室(分析化学)

 研究紹介Researches

 高速液体クロマトグラフィーで界面の水の状態を測る(渋川)

  高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は空間的に物質を分離する方法の代表であり、世界で最も使用されている分離分析法と言っても過言ではありません。 これまで、HPLCの溶質保持機構は多くの研究者の興味を惹いてきましたが、その機構は厳密には明らかになっていません。
 本研究グループでは、水を移動相としたHPLCが、水溶液と充填剤表面との界面の状態を探る新しい解析手法となり得ることを見出しました。 この研究で、充填剤の疎水表面近傍にはバルク水とは異なる水の層が存在し、この水相が分離媒体(固定相)として機能することを世界で初めて発見しました。 一方,親水性材料からなる充填剤は水との混合溶液相を形成することが明らかになりました。 今後は、界面からの距離や疎水性表面の化学構造などを調査することにより、疎水場における界面水の構造や物性がどのように変化するかを明らかにしていく予定です。
 

参考文献:
Physical Chemistry Chemical Physics
, 13, 15925-15935 (2011)
Analytical Chemistry, 79, 6279-6286 (2007).
Chromatography, 29, 13-20 (2008).
Polymer, 49, 4168-4173 (2008).
分析化学, 55, 149-162 (2006).
J. Chromatogr. A, 1040, 45-51 (2004).
J. Chromatogr. A
, 832, 17-27 (1999).


超高温水クロマトグラフィーでイオンの水和状態を測る(渋川)

  水は100℃以上でも圧力をかければ液体状態を保てます。この100℃以上の高温水を使ったクロマトグラフィーが超高温水クロマトグラフィー(SWC)です。 超高温水は極性が通常の水よりも低くなるため、水−有機混合溶媒の代わりに水そのものを利用できるだけでなく,従来にない分離性能が得られる可能性があります。 本研究グループでは、特に超高温水イオン交換クロマトグラフィーに挑戦し、イオンの分離選択性が大きく変化することを発見しました。 このことは、イオンの溶媒和状態の変化を捉えていると考えられ、SWCが水和状態を観測できる独特な方法になる可能性があります。 現在は、高温水中で実際にイオンの水和状態が異なるかどうかの分光学的な検証も含め、研究を進めています。

参考文献:
Analytical Chemistry,
81, 8025-8032 (2009).

細胞を認識する特殊なDNAをCEで見つける(齋藤)

  一本鎖DNAは分子内結合により様々な立体構造をとることでタンパク質や糖鎖などの様々な生体高分子を認識でき,これをDNAアプタマーと呼びます。 近年,DNAアプタマーは,抗体に代わる生体認識分子として医療診断,創薬などの生物工学での利用が大きく期待されています。
 このテーマでは,キャピラリー電気泳動法(CE)を基盤として,細胞(粒子系)とDNA(分子系)の高度な濃縮-分離-分取を一度に達成することで, 動物細胞・細菌・ウィルスに対して高いアフィニティーを有するDNAアプタマーを数日〜一週間以内で確実に獲得(選抜)できる新しい方法論を確立することに挑戦しています。
 この方法では,まず,非常に膨大な配列パターンを持つDNAの集合体(プール)とターゲットとなる細菌細胞を混合してDNAを細胞表面に結合させます。 その後,我々の研究室で開発した細胞の分離に適したCE法(高分子増強ーキャピラリー過渡的等速電気泳動法;PectI法)によって, DNA-細胞複合体と結合しなかったDNAを完全に分離し,かつ複合体のピークだけを精密に回収します。 そこに含まれる細胞に結合していたDNA(アプタマー)をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で増幅した後,DNA配列を解析すれば,細胞表面に結合していたDNA配列が判明します。
 この方法を用いれば,従来法(SELEX法(in vitro selection法))で1〜数ヶ月もかかっていたアプタマー選抜をわずか一回の分離操作で数日〜一週間以内に完了できるだけでなく, 分離している間にずっと細胞表面に結合し続けていた親和性の高いDNAアプタマーを選抜できると考えています。 実際に,このPectI選抜法で大腸菌,酵母,枯草菌などに対して高親和性のDNAアプタマーを獲得することに成功しています。 今後は,動物生細胞やウィルスなどに対しても,迅速に高機能なDNAアプタマーを獲得する方法を確立すると共に, 細胞表面に発現するターゲット分子に選択的なDNAアプタマーを選抜する手法の確立に挑戦し,様々な分子認識モチーフを探索していく予定です。

参考文献:
Chemical Communications, Accepted..
特願2015-51714号.

電気泳動法で生体中の金属イオンの分布を測る(齋藤)

  生体中のタンパク質の約3分の1は金属結合性タンパク質だと言われています。また,金属イオンは多くの疾病に関与しており,生命活動において金属イオンの役割は非常に重要であることが分かってきました。 そこで,「どのタンパク質にどの金属イオンがどれくらい結合しているか」という生体内金属分布に関する情報が重要となります。 しかし,タンパク質結合型金属を計測しようとしても,金属タンパク質から金属イオンが解離してしまったり, 外部からの汚染金属イオンと試料中の微量なタンパク質結合型金属イオンが混ざってしまったりするため,このような分布情報を得るのは非常に困難でした。
 我々は,近年,ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PAGE)を使って,上記の問題を解決した新規計測法を開発しました。 一つは蛍光プローブを使って,超微量金属イオンを濃縮-分離-定量するPAGE(金属検出PAGE)で,もう一つは汚染金属の影響を完全に排除しつつ, タンパク質から金属イオンの解離を防ぐPAGE(Metal Ion Contaminant Sweeping-Blue Native PAGE, MICS-BN-PAGE)です。 この二つのPAGEの組み合わせにより,一次元目に金属タンパク質を分離し,二次元目にタンパク質結合型銅イオンを検出することに成功しました。
 このMICS-BN-PAGE/金属検出PAGE法で血清中の銅イオン分布を見てみると,従来広く知られていた銅イオンの分布と大きく異なる分布が得られました。 これは,我々の方法が従来の方法と比べ,汚染金属や金属解離の影響を受けない方法であったため,分布を正確に計測できたためではないかと考えています。 また,フランス国立科学研究センター(CNRS)との共同研究では,紅色非硫黄性光合成細菌Rubrivivax gelatinosusのペリプラズム空間中に存在するCopIタンパク質が銅結合性タンパク質であることを発見し, CopIがこの細菌の銅代謝に深く関与していることが判明しました。今後も様々な生体試料の正確な金属イオン分布を計測できる方法を創り出し,金属と生命との関連を研究していく予定です。

参考文献:
mBio, 6, e1007-15 (2015).
Electrophoresis Letters, 58, 24-26 (2014).
化学工業,66, 21-27 (2015).
Analyst
, 138, 6097-6105(2013).
特許5145511号(2012.12.7)
特開2009-150650号.

キャピラリー電気泳動法−レーザー励起蛍光検出法で超微量アクチノイドイオン濃度を測る(齋藤)

方針イメージ  当研究室では以前より,高い電場で物質を分離する電気泳動を用いることによって金属イオンを分離検出する技術を開発してきました。 電気泳動法の中でも特に高分離が期待できる方法にキャピラリー電気泳動法(CE)があります。CEは、nLレベルの試料を内径数十μmの溶融シリカ細管中で電気泳動的に空間分離する方法です。 一般にCEは導入試料量が少ないため、濃度感度が低いことが知られていますが、レーザー励起蛍光検出法(LIF)を併用することで蛍光物質を高感度検出できることが知られています。
 一方、金属イオンは一般に蛍光物質ではないのでCE-LIFを利用することはできません。 そこで,CE-LIFを用いて金属イオンを計測可能とする新規蛍光性物質(プローブ)を開発しています。 このプローブをCE-LIFに適用することでpMレベルの金属イオンの超高感度分離検出が簡易にできるようになりました。 この様なCE-LIF用の金属検出用蛍光試薬を開発しているのは世界でも当研究室だけです。
 最近では,アクチノイドイオン(An)やランタノイドイオン(Ln)といった重金属を超高感度に計測するため,AnおよびLnに適合した蛍光プローブを開発しています。 この技術は,使用済核燃料などの放射線量が高く,大量に扱うことが困難な試料に適した方法として,日本原子力研究開発機構とも共同研究を進めています。

参考文献:
Analytical Sciences, 30, 773-776 (2014).
特願2014-063074号(2014.3.26)
Journal of Chromatography A, 1232, 152-157 (2012).
Proceedings of the ASME 14th International Conference on Environmental Remediation and Radioactive Waste Management (ICEM2011), pp1-5 (2012)
Analyst, 136(13), 2697-2705 (2011).
分析化学,60(10), 773-784 (2011).
特願2012-34711号(2012.2.21)
特願2012-193742号(2012.9.4)
Electrophoresis, 14, 2448-2457 (2007).
Journal of Chromatography A, 1140,230-235 (2007).
Analyst, 132, 237-241 (2007).

キャピラリー電気泳動−レーザー励起蛍光検出法で細菌を測る(齋藤)

方針イメージ  キャピラリー電気泳動法(CE)の多くは分子やイオンなどの小さな物質を分離するために開発されてきました。しかし、世界の幾つかの研究グループでは細菌や細胞をCE分離する方法も研究されています。
 当研究グループでも細菌の分離検出に挑戦しています。 その際、細胞表面の炭水化物と選択的に結合し、強い発光(蛍光)を示す色素を開発し、この新規色素を使ってCE-レーザー励起蛍光検出法(LIF)で高感度分離検出する方法を開発しました。 この方法は、他の物質からの妨害があまりない長波長(630 nm)の発光を使っており、キャピラリー管内で細菌と反応させるために染色などの前操作がいらない簡便な方法です。 さらに、従来はCE分離の際に、細菌の会合体が出来てしまうために一つの属に対し複数のピークが検出されてしまうことが問題でしたが, 高分子の添加と等速電気泳動法の組み合わせによる特殊な濃縮法(polymer-enhanced capillary transient isotachophoresis)を考案し、 一つの属に対し一つのピークが得られ、さらに複数の属に対し分離することに成功しました。現在は、色素とPecTI法の高性能化に挑戦しています。
 この研究は、大阪府立大 有機機能化学研究グループ(色素合成) および米国Wake Forest大学 Colyerグループとの共同で行っています

参考文献:
Analytical Chemistry, 84, 2454-2458 (2012).
Sensors
, 12, 5420-5431 (2012).
Analytical Sciences, 29(1), 157-159 (2013).

糖分子に選択的な発光分子素子を創る(齋藤)

生体を構成する要素の一つである糖類が連なった糖鎖は,生体内で様々な機能を発現します。 一方,糖分子の一つであるアセチルノイラミン酸(シアル酸)は糖鎖の末端に位置し,細胞同士の認識や,がん細胞の表面に多く発現することが知られる非常に重要な糖分子です。 そこで,糖鎖を認識する人工分子(レセプター)の開発が期待されています。しかし,シアル酸の有する特徴的な構造を認識できる人工レセプターはほとんど開発されていません。 本研究室では二つのアプローチによるシアル酸認識系の開発に成功しています。
 一つは,ランタノイド(Ln)イオン錯体による特異的なシアル酸認識系です。従来の糖分子認識人工レセプターは糖分子のcis-ジオールを認識するボロン酸骨格を有するものでした。 しかし我々の開発した人工レセプターでは,中心Lnイオンに配位した水分子の酸解離反応に伴い,シアル酸残基とLn錯体のの水素結合とLnイオンへの配位結合の両方を用いることで,特異的な分子認識に成功しました。 この様な緻密な配位空間の制御と多点相互作用による超分子的アプローチによる糖認識は本研究グループのオリジナルなアイデアです。
  もう一つのアプローチは,スクアリリム色素にボロン酸を修飾した分子(SQ-BA)を用いて長波長(>650 nm)での発光増感を用いて糖分子を認識する手法です。 SQ-BA色素は誌溶液中では会合体を形成してほとんど発光しませんが,種々の糖分子と錯形成すると会合体が解離し,発光性の単量体のSQ-BA-糖分子錯体を生成します。 一方,SQ-BAの会合体(二量体)が選択的にシアル酸に結合することを発見しました。 そこで,様々な疎水性のSQ-BA分子を合成し,SQ-BA会合体の化学構造を制御したところ,シアル酸に特異的に反応するSQ-BA色素の開発に成功しました。
 現在は,この二つのアプローチを拡張して,シアル酸を含む糖鎖認識プローブの開発やシアル酸含有糖タンパク質の高度分離法の開発に挑戦しています。

参考文献:
Analytical Sciences (2015) accepted.
Analytical Chemistry, 87, 1933-1940 (2015)
Inorganic Chemistry, 52, 6239-6241 (2013).
Chemistry Letters
, 38(5), 412-413 (2009).

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